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福岡地方裁判所 昭和37年(ヲ)188号 決定

決  定

福岡県糸島郡前原町大字高田三三番地

申立人

森脇チヨノ

同所同番地

申立人

森脇繁美

同所同番地

申立人

森脇美千江

右両名法定代理人親権者母

森脇チヨノ

福岡市吉塚八丁目馬場アパート内

申立人

高武ヨシエ

右四名代理人弁護士

柴田健太郎

同市鳥飼町六丁目四八八番地の三

被申立人

倉智等

同市東唐人町五九番地

被申立人

有限会社丸は産業

右代表者代表取締役

春田勲志

みぎの当事者間の代金支払期日指定、代金納付命令、配当期日指定に対する異議申立事件につき、次のとおり決定する。

主文

当庁昭和三五年(ヌ)第三〇号不動産強制競売事件につき昭和三七年三月二〇日と定めた配当期日の指定は、これを取消す。

申立人らのその余の申立を却下する。

理由

本件異議申立の要旨は、

債権者被申立人倉智等、債務者森脇美嘉間の当庁昭和三五年(ヌ)第三〇号不動産強制競売事件につき、昭和三六年八月八日被申立人有限会社丸は産業に対し競落許可決定の言渡がなされた。これより先、債務者森脇美嘉は同年同月七日死亡したので、申立人森脇チヨノは同人の妻として、その余の申立人らは同人の子として、いずれも同人の相続人となつた。

みぎの強制競売は債権者被申立人倉智等、債務者森脇美嘉間の昭和三五年三月七日福岡法務局所属公証人楢原義男作成第七万九六二三号金銭消費貸借及譲渡使用貸借契約公正証書の執行力ある正本に基くものであるところ、申立外小野田清は申立人らのため被申立人倉智等に対し、前記競落許可決定の確定前である昭和三六年八月一五日前記債務名義上の支払債務中元利合計金二六〇万円および本件強制競売事件執行費用金七万円を弁済し、同時にその余の請求を放棄したので、申立人らは即日みぎの趣旨を記載した同被申立人の領収証二通を当裁判所に提出した。

したがつて、申立人らの被申立人倉智等に対する本件債務は全部消滅したから、以後本件強制競売手続を続行することは許されないのであつて、その後前記競落許可決定が確定しても、競落人である被申立人有限会社丸は産業は競落不動産の所有権を取得するものではない。

のみならず、申立人らが前記の各領収証を当裁判所に提出したことによつて、民事訴訟法第五五〇条第四号により本件強制執行は停止されたのであるから、以後本件強制競売手続を続行することは許されない。

しかるに当裁判所はその後代金支払期日を昭和三七年三月一二日午前一〇時と指定して被申立人有限会社丸は産業に対し代金の納付を命じ、更に配当期日を同年二〇日を同年同月二〇日と指定したのは、その手続が法律に違背したものというべきであるから、みぎの各期日指定および代金支払命令の取消を求める。

というのである。

本件記録によれば、申立人ら主張の不動産強制競売事件につき申立人ら主張のとおりの各執行手続(ただし、代金支払命令がなされたことを除く)がなされたこと、および申立人らが昭和三六年八月七日執行債務者森脇美嘉の死亡に因りその相続人となつたことを認めることができる。

申立人らは、本件執行債権が競落許可決定の確定前に消滅したから、以後本件強制競売手続を続行することは許されず、また競落人である被申立会社は競落不動産の所有権を取得しえない旨主張する。しかし、不動産強制競売事件においては、執行裁判所は債務名義の執行力ある正本が提出され、かつ法定の執行の取消ないし停止事由の存しない限り、執行手続は有効に続行されるのであつて、このことは、債務名義が確定判決であると公正証書であるとによつて差異を生ずるものではなく、また執行債権が消滅したと否とによつて左右されるものでもないと解すべきである。本件記録に徴すれば、執行債権者から執行力ある公正証書の正本の提出を受けていることは明瞭であり、また競落期日の終了前には執行を停止または取消すべき何らの法定の書面も提出されていないことが明らかであるから、本件競落許可決定の言渡にはみぎの点において何らのかしも存しなかつたものというべく、したがつて競落人たる被申立会社は、みぎの競落許可決定の確定によつて有効に競落不動産の所有権を取得したものと言わなければならない。

次に申立人らは、本件強制競売手続は民事訴訟法第五五〇条第四号所定の弁済証書の提出により、以後手続を続行しえないものであると主張する。しかし、同法第五五一条によれば、弁済証書が提出されたときは従前の執行手続はなお保持されるのであり、他方同法第六八〇条は、競落許可決定に対する不服方法として特に即時抗告を認め、しかも該即時抗告は執行停止の効力を有するものと規定し、第六八二条は、一の決定に対する数個の抗告については互に併合して裁判すべきものとし、また第六八六条は、競落許可決定により不動産の所有権を取得することを規定しているのであつて、これらの規定を互に対比して考えるときは、競落許可決定に対する即時抗告は同決定の確定を遮断し所有権取得の効果を不確定のものとする効力を有するのに対し、弁済証書の提出はかかる効力を有するものではなく、競落許可決定に対する即時抗告期間中に弁済証書が提出されても、即時抗告期間はそのまゝ進行し、その徒過によつて競落許可決定は確定し、競落人は確定的に競落不動産の所有権を取得するものと解すべきである。

そして、競落許可決定が確定した以上競落人は、代金を裁判所に支払う義務を負い、代金が完納された以上、裁判所は競落人に対し所有権の移転に伴う必要な手続を進めるべきであつて、かりにその後請求異議訴訟の確定判決正本の提出により強制競売手続が取消されたとしても、みぎの理に変りはない。したがつて、競落により目的不動産の所有権が移転したにもかかわらず競落人に対し代金支払の機会を与えないことも、代金が完納されたにもかかわらず不動産引渡命令の申立を拒否し、また所有権移転その他の必要な登記を嘱託しないことも、みな許されないものというべきである。

本件記録によれば、本件競落許可決定に対する即時抗告期間中に競売手続開始決定に対する異議申立がなされ、その添付書類として申立人ら主張の領収証二通が提出されたが、同期間中に即時抗告はなされなかつたこと、みぎの異議申立は不適法として却下され、その裁判が確定したこと、およびみぎの各領収証には申立人ら主張の記載が存することが明らかであるから、同期間中には結局民事訴訟法第五五〇条第四号所定の弁済証書のみが提出されたものというべく、したがつて本件競落許可決定は即時抗告期間の満了により確定したと解すべきであるから、その後代金支払期日の指定がなされたことには何ら違法の点は存しない。本件異議申立中、みぎの期日指定の取消を求める部分は理由がない。

申立人らは、本件強制競売手続において競落人たる被申立会社に対し代金支払命令がなされたとして、その取消を求めるのであるが、本件記録に徴しても、かかる命令がなされた形跡はなく、民事訴訟法の解釈上も執行裁判所は代金支払期日を指定して利害関係人、配当要求債権者および競落人を呼出せば足り、代金支払命令を発すべきものでないと解するのを相当とするから、本件異議申立中みぎの部分は不適法というほかない。

前述のように、本件強制競売手続は、弁済証書が提出されたにもかかわらず、競落人に対する競落不動産の所有権移転に伴う手続に関してはなお続行すべきであるが、執行債権の弁済に関する申立人らの主張は、請求異議訴訟の判決において最終的に判断されるのであり、該判決の結果いかんにより配当手続に重大な差異を生ずるのであるから、本件弁済証書の提出による執行停止の効果は当然配当手続に及ぶものと解しなければならない。したがつて本件強制競売手続において代金配当期日の指定がなされたことは違法であるから、本件異議申立中配当期日の指定の取消を求める部分は理由がのる。

よつて、主文のとおり決定する。

福岡地方裁判所民事第四部

裁判官 大 和 勇 美

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